――『ベルサイユのばら』は原作の漫画に加え、宝塚歌劇やアニメなど、さまざまな形で親しまれていますが、彩風さんが最初に「ベルばら」と出会ったのはいつだったのでしょうか?
私が『ベルサイユのばら』と出会ったのは、宝塚歌劇でした。小学6年生の時に、中学校へ上がる前にテレビで観たのが最初です。その舞台をきっかけに、宝塚に入りたいと思うようになりました。
当時、オスカルを演じていらした、彩輝なおさんの姿があまりにも美しく、そのオスカルに魅了され、彩輝さんのファンになりました。当時はビデオで録画していたのですが、それこそ擦り切れるほど繰り返し観ていました。そして、その時に「絶対に宝塚に入ろう」と強く決意しました。
――その後もテレビでご覧になっていたのですか?
その頃は、なかなかテレビで放送される機会も少なかったんです。当時、彩輝さんは特定の組に属されていなくて、不定期でご出演されている方だったので、彩輝さんが出られる公演を調べて。そして、その年の春に出演される公演があると知り、それを観に行ったのが私にとって初めての宝塚の公演でした。
――彩風さんにとっての『ベルサイユのばら』の魅力とは?
まず最初に、「美しい」という言葉が思い浮かびます。小学生だった当時、こんなに華やかで美しい世界があるんだと衝撃を受けたことを今でも覚えています。衣装もそうですし、舞台セットもそう。まさにすべてにおいて「美しい」と感じていました。
――今回の劇場アニメ『ベルサイユのばら」をご覧になった感想をお聞かせください。
すごく懐かしさを感じると同時に、新鮮さもあり、衝撃を受けました。歌を使った演出もとても斬新でしたね。自分の好きなキャラクターたちそれぞれが、自分の心情を歌に乗せてお届けするという表現が、とても素敵だなと思いました。なかでも、仮面舞踏会の場面が本当にすばらしかったですね。宮廷の場面での音楽と、パリの街での仮面舞踏会の音楽がまた違うところもすごく印象的で。しかもあそこがマリー・アントワネットとフェルゼンとの出会いの場となるわけなので特に心を動かされました。わたしはやはりどうしてもフェルゼン目線で見てしまうんですよね(笑)。
――これからご覧になる方のために、彩風さんなりの注目ポイントを教えてください。
わたしが特に印象に残ったのは、オスカルやアントワネットの背景に、花がパーッと咲き誇り、美しくちりばめられているシーンですね。アントワネットとフェルゼンのシーンでも花が咲き誇っていましたし、それぞれのシーンにおける花の、特にバラの使い方が素敵だなと思うので、そこは注目ポイントかなと思います。やはり華やかですし、これを舞台で表現するのは難しい。アニメーションならではの表現だなと思いました。
――彩風さんはもともとオスカルに憧れをお持ちだったと伺いましたが、その魅力や好きなところについて教えてください。
やはり唯一無二の存在であるところですね。女性として生まれながらも男性として育てられるという生き方に、最初は強く惹かれました。わたしも「オスカルになりたい」と思っていましたし、言ってしまえば宝塚の男役のような存在ですからね。だからこそ宝塚に入った当初、まだいろんな役をさせていただく前は、ずっと「オスカルのような男役になりたい」と思い続けていました。
――フェルゼン役を経験した今はどうでしょうか?
研究科7年生の時の新人公演でフェルゼンを演じた時に、自分が持っている雰囲気などからも、「わたしはオスカルではないな」と思ったんです。もちろんオスカルを演じてみたい、挑戦してみたいという思いもありましたが、フェルゼンを演じた時に「これだったんだ」としっくりくるものがありました。
――『ベルサイユのばら』に出演することには、大きなプレッシャーもあったのではないでしょうか?
最初は『ベルサイユのばら』に出演できたことがただしあわせで。パレードで歌っていた時には両親への感謝の気持ちが込み上げてきて、「わたしはこれがやりたくて宝塚に入ったんだ」と強く実感しました。新人公演に挑戦した時も、もちろん本役の壮 一帆さんをお手本にはしていたんですが、それでもやはり小さい頃に憧れていた作品に自分が立っているという思いがあり、自分の理想みたいなものがありました。ただこの時はただただ必死に、大きな課題にぶつかっていったという感覚でした。
でもその後に、卒業公演でもう一度フェルゼンを演じた時には、新人公演で演じた時以上のこだわりとプレッシャーと理想が膨らんでいました。なので稽古場では“これはわたしが思い描いてるフェルゼンじゃない”“自分がそこに到達できていない”ということにすごくいら立ちを感じていました。それは自分の卒業公演だということよりも、やはり伝統ある『ベルサイユのばら』という作品をすばらしいものにしたい、最高のものにしたいという思いでいっぱいだったんです。卒業を忘れるほどに、この役と作品にのめり込んでいました。
――宝塚に入りたいと思ったきっかけも『ベルサイユのばら』ですし、新人公演も、卒業公演も『ベルサイユのばら』だったということで、運命的なものを感じるのでは。
本当にそうですね。わたしは『ベルサイユのばら』に導かれているんだと。ご縁を感じています。
――彩風さんにとって『ベルサイユのばら』とはどんな存在ですか?
『ベルサイユのばら』は、私にとって夢の原点であり、この作品がなかったら宝塚に入っていなかったかもしれません。それはわたしだけでなく、宝塚にかかわるすべての人たちにとっても同じ思いだと思います。実際、わたしの母も原作の『ベルサイユのばら』の大ファンでしたから。そうやって宝塚以外でもずっと受け継がれているということが素晴らしいことだと思います。
――彩風さんは『ベルサイユのばら』に限らず、原作がある作品を数多く演じてこられましたが、プレッシャーは感じますか?
わたしは漫画原作の役をやらせていただくことが本当に多くて。『ベルサイユのばら』はもちろん、「るろうに剣心」や「ルパン三世」もそうですよね。『ベルサイユのばら』の時も池田理代子先生が描かれた漫画と、アニメをバイブルのように思っていました。
もちろん台本に書かれてあるものを大事にするんですが、なぜ宝塚での「ベルばら」がブームになったのかと考えると、やはり漫画やアニメのキャラクターたちが、そのまま舞台に浮かび上がってきたところが大きかったんだと思うんです。そしてそこが先輩方がすごくこだわられたところじゃないかなと思うので。何かあったら漫画を開いて、フェルゼンの立ち方や、アニメーションの効果、効果音といったところを、生身の人間が表現するにはどうしたらいいんだろうというのはすごく考えましたね。
ただお客さまは宝塚に夢を見にいらっしゃっていると思うので。リアルすぎると『ベルサイユのばら』の世界観から外れてしまいますし。でもアントワネットとフェルゼンの恋、オスカルとアンドレの恋、愛というのが本物でないと、お客さまの心は動かせない。だからそのリアルとリアルではないところの真ん中を突き詰めるところがすごく難しかった。
それは自分がどの作品を演じる時にも気をつけていたことかもしれません。ほかの作品でも、迷った時は原作なりアニメなどを参考にしたりということはありました。もちろんアニメの場合、男性のキャラクターは男性の方が演じられていることも多いので。なかなかそこに近づくことは難しいんですが、それでも少しでもそのエッセンスに近づけたら素敵かなと思って。少しでもこの言い回しが、アニメーションのあの部分に似ているなと思っていただけたら、少しでも原作ファンの方に喜んでいただけるのではないかと。そういうことを考えたりしてました。
――もし『ベルサイユのばら』の時代にタイムスリップできるとしたらどうしますか?
わたしはベルナールのようにいろんな人の先頭に立っていろんなものを見てみたいなと思いますね。実はわたしは宝塚時代にベルナールを演じたことがあったので、貴族側も市民側も両方経験させていただいたことがあるんです。それはどちらも楽しかったんですが、市民側のバスティーユで戦った経験などは舞台としてもすごく印象に残っているので、その時のパリの状況などはどんな感じだったのか、というのは気になります。
――この映画の「気高く、ひたすらに、愛した」というキャッチコピーにちなみ、彩風さんがひたすらに愛してるもの、好きなものは何ですか?
辞めてからあらためて思ったんですけど、ひたすらに愛してるものは宝塚です。自宅で(宝塚歌劇専門チャンネルの)「タカラヅカ・スカイ・ステージ」に入っていて。気付いたらひたすら「スカイ・ステージ」を見ていて。わたしはどれだけ宝塚が好きなんだと思ってしまいますが(笑)。自分の作品はあまり見ないんですが、昔の作品がやっているとついつい見てしまいますし、この間の朝美 絢のお披露目公演を観に行った時も、やっぱり宝塚っていいな、雪組っていいなと思ったので。だからこれからは宝塚ファンの先頭に立っていきたいなと思っています(笑)。
――『ベルサイユのばら』はいろいろなキャラクターたちが、自分たちのポリシーや哲学を持って生きていく物語となりますが、彩風さん自身のロールモデルだったり、この人みたいになりたいといったあこがれの人、目標にしている人などはいらっしゃいますか?
宝塚でもいろいろな素敵な先輩と出会うことができて。いろいろと目標とさせていただいてる方はいらっしゃいますが、今回は『ベルサイユのばら』のご質問ということなので、大浦みずきさんですね。『ベルサイユのばら』のフェルゼンを演じるにあたって、歴代の作品をいろいろと見てきたんですが、一番見たのが大浦みずきさんの作品だったんです。
わたしは宝塚でも結構ダンスが多い作品に出ることが多くて。そういう時に大浦さんの昔の映像を引っ張り出してきて、ずっと動きを見て参考にさせていただいていました。大浦さんは退団後もすぐに海外に渡って勉強されたりと、本当に突き詰められているところが素敵だなと思っています。大浦さんのフェルゼンには、すがすがしさと美しさがあって。それと劇中でもダンスシーンもたくさんあったんですよ。宝塚でも踊るフェルゼンって、なかなか他の作品ではないんですけれども、大浦さんの踊るフェルゼンを見て、どうしてこの宮廷服でそこまで踊れるのだろうとすごく感じていて。だから大浦さんのようにすがすがしく、カッコ良く生きることができたらなと。女性としても、男役としても、尊敬しています。
――それでは最後にファンの皆さまへひと言お願いします。
わたしはこれからもフェルゼンのようにまっすぐに進んでまいりたいと思います。今後ともよろしくお願いします。